渡邊 直子(わたなべ なおこ)
北海道大学大学院工学研究院教授。University of California, Davis, Department of Civil and Environmental Engineering博士課程修了。専門は、土壌・地下水汚染、原子力施設廃止措置、放射性廃棄物管理。技術、コスト、社会的受容性のバランスの取れた合理的な廃止措置の仕組み作りに興味を持っている。
原子力発電で生じる放射性廃棄物は、どこに、どのように捨てたらよいのだろうか。放射性廃棄物のうち、再処理した使用済み燃料をガラス固化した「高レベル放射性廃棄物」は、地下300メートル以深に地層処分される計画である。地層処分は放射性物質を閉じ込め、長期にわたって人間の生活圏から隔離するという考えに基づいており、その安全性を検討するために、これまで様々な研究が行われてきている。この講座では、高レベル放射性廃棄物の地層処分を題材として、その科学的な研究アプローチがどのようなものか学習することを目的とする。
本講座では、放射性物質が生活圏に影響を与える可能性のあるシナリオのうち、地下水によって処分施設から生活圏へ運ばれることを考える「地下水シナリオ」を取り上げる。処分施設から生活圏までの間に放射性物質を閉じ込める役割を持つ多重のバリアが構築されるが、各講義では、この多重バリアシステムの構成要素をひとつずつ取り上げ、それぞれが放射性物質をどのように保持し、また生活圏までの移行を遅延するのか、そのバリア機能を評価するための研究手法について紹介する。最後に、将来の地層処分の安全性を評価する「安全評価」についても説明する。
本講座では、学習者が、以下のような地層処分に関する質問に回答することができるようになること、また講義で得た知識をもとに地層処分研究の今後について、各自で考えられるようになることを目標とする。
質問例
-高レベル放射性廃棄物は、なぜ、埋めるのか。
-なぜ、地中深いところに埋めるのか。
-埋めた後、何が起こるのか。施設は壊れないのか。
-放射性核種はいつ、どのように生活圏に到達するのか。
-なぜ、長期の予測ができるのか、どのように予測するのか。
本講座で扱う高レベル放射性廃棄物とは何か説明した上で、地下水によって地層処分施設から生活圏へ放射性物質が運ばれることを考える「地下水シナリオ」を紹介する。また、今後の講義で取り上げる多重バリアシステムの構成要素について、期待されている役割を概説する。
高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性核種をガラスによって固化した「ガラス固化体」について、なぜガラスに閉じ込めるのか、どのように作るのか解説する。また放射性核種がガラスからどのように溶け出すのか、放射性核種の挙動についても説明する。
ガラス固化体を覆う金属容器であるオーバーパックについて、期待される役割や、その素材、設計・製作方法などについて概説する。また腐食対策や、耐圧、放射線を遮蔽するための仕組みについて説明し、幌延深地層研究センターの地下研究施設での研究など最新研究を紹介する。
オーバーパックと地下深くの岩盤の間で緩衝材の役割を果たす粘土(ベントナイト)について、その性質や、緩衝材に期待される役割を概説する。またベントナイトが放射性物質の移行を遅延させる仕組みや、ベントナイトの機能を評価するための研究について講師が行った実験結果をそのモデルとともに紹介する。
深部地下環境における岩盤の閉じ込め性能について説明する。また、岩盤中で放射性元素を移行させる地下水や物質の流れ方、その移動経路について解説する。さらに日本の地下研究施設における研究事例として、岩盤中での物質移動のシミュレーションについても紹介する。
時間的にも空間的にもシステムの挙動を直接予測できない地層処分について、どのような考えに基づいて安全性を確かめるのか、解説する。将来、起こり得る事象についてのシナリオの作り方、それに基づいた将来挙動のモデル化について説明した後、モデル計算の結果をどのように解釈するのか説明する。
北海道大学大学院工学研究院教授。University of California, Davis, Department of Civil and Environmental Engineering博士課程修了。専門は、土壌・地下水汚染、原子力施設廃止措置、放射性廃棄物管理。技術、コスト、社会的受容性のバランスの取れた合理的な廃止措置の仕組み作りに興味を持っている。
放射化学研究者、ITM Atlantique名誉教授。ベルリン自由大学卒。同大学にて博士号取得。ナント大学でHDR(研究指導資格)を取得。自然環境における放射性核種の化学と熱力学、地層処分環境におけるコンクリート、黒鉛、ガラス固化体、核燃料の挙動など、放射性廃棄物管理に関する研究に45年間従事。ドイツ、米国、フランスで教育・研究活動を行う。2011年から2018年までSUBATECH所長、2015年から2022年まで日本原子力研究開発機構・先端基礎研究センター・界面反応場化学研究グループを率いた。
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構基盤技術研究開発部次長。北海道大学工学部原子工学科卒業。研究分野は高レベル放射性廃棄物および使用済み燃料の地層処分における金属材料を中心に、人工バリアの設計、材料特性・長期挙動評価、モニタリング手法の開発など。
北海道大学大学院工学研究院教授。北海道大学大学院工学研究科修士課程修了。博士(工学)[北海道大]。専門は、放射性廃棄物管理、原子炉材料、原子力施設廃止措置。2011年より文部科学省の補助金を得て実施中の原子力人材育成事業(「国際原子力人材育成イニシアティブ事業」)において、2012年より事業代表者を務める。2019~2022年度同大学工学院副学院長。2021年より同大学原子力安全先端研究・教育センター長。2023年度より同大学工学系教育研究センター長。
日本原子力研究開発機構 幌延深地層研究センター 副所長。1969年愛知県出身。富山大学理学部生物圏環境科学科修了後、日本原子力研究開発機構の前身である動力炉・核燃料開発事業においてウラン鉱床の成因、保存メカニズムの研究に従事。その後、深部花崗岩を対象とした瑞浪超深地層研究所、深部堆積岩を対象とした幌延深地層研究センターの二つの地下研究プロジェクトにおいて、地下深部環境の水理化学モデリングや地下施設閉鎖後の環境モニタリングに関わる研究開発などに従事。著書に「これからどうなる?日本の電力とエネルギー」(日本橋出版社)がある。
東海大学工学部応用化学科教授。博士(工学)[東北大学]。専門は、放射性廃棄物処分の安全評価、核燃料サイクル工学、システム解析。1996年動力炉・核燃料開発事業団(現 日本原子力研究開発機構)に入社し高レベル放射性廃棄物地層処分の安全評価に関する研究に従事。以来25年以上にわたって放射性廃棄物処分の安全評価や工学技術の分野で経験を積んできた。2010年から2012まで経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)にも勤務。2018年に東海大学工学部原子力工学科に着任。2019年よりIAEAの国際スクール(IAEA International School of Nuclear and Radiological Leadership for Safety)のファシリテーターも務める。
本講座は、JMOOCカテゴリーⅠ(大学が提供する大学通常講義相当の講座)である。高校生以上を想定しているが、受講に対する制限はなく、どなたも受講可能である。また先行して公開された「放射線・放射能の科学」の知識があると理解しやすい他、一部の講義では、工学部修士レベルの知識が求められる。
理解度確認クイズ
最終レポート課題
得点率60%以上
5週間
講義動画収録時期:2023-24年
カテゴリーⅠ
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